前回は選考時点で「聞いてはいけないこと」をお伝えしましたが、では逆に「必ず聞いておくべきこと」は何でしょうか?
それは本人の「既往歴」(これまでにどのような病気にかかったか、アレルギーや持病、大きなけがをした経験はないかなど)についてです。
これは採用担当者によっては「聞いてはいけないのでは?」と考える人も多いようですが、決してそんなことはありません。
労働安全衛生法に基づく確認すべき理由
(1) 労働安全衛生法に基づく義務
労働安全衛生法65条の3により、事業者(会社)は労働者の健康に配慮して、従事する作業を適切に管理する努力義務を負っています。これには、従業員の持病や既往歴を把握し、それに応じた配慮を行うことが含まれます。
(2) 安全配慮義務の履行
従業員が持病や健康上の問題を抱えている場合、その病状が就労をきっかけに悪化した場合、企業は「知らなかった」では責任を免れられない可能性があります。特に、業務内容や職場環境が従業員の健康状態に影響を与える場合、適切な配慮が求められます。
(3) 雇用契約の透明性
従業員が健康情報を正しく申告し、企業がその情報に基づいて対応することで、雇用契約の内容や職務内容の適合性を確認することが可能です。これにより、双方のトラブルを未然に防ぐことができます。
確認方法
(1) エントリーシートや質問票を活用
面接時に直接尋ねるのが難しい場合、以下のような項目をエントリーシートや質問票に含めると良いでしょう。
- 「現在または過去において、医師から治療を受けた病歴がありますか?」
- 「持病や健康上の理由で、配慮が必要な事項があればお知らせください。」
(2) 健康診断の実施
採用時に法定健康診断を行うことで、従業員の健康状態を確認することができます。ただし、特定の検査(HIV検査、B・C型肝炎検査など)については、本人の同意がない場合は認められていないため注意が必要です。
(3) 個人情報の取り扱い
健康情報は特にセンシティブな個人情報に該当するため、以下の対応が必要です。
- 従業員本人の同意を得ること
- 健康情報を取り扱う担当者を限定すること
- 情報を厳重に管理し、目的外利用をしないこと
注意点
(1) 聞いてはいけないこと
「HIV検査の実施」や、採用の合否に関わらないプライバシーに過度に踏み込む質問(家庭環境や結婚の有無など)は、差別やプライバシー侵害となる恐れがあるため、避けるべきです。
(2) 健康情報を聞く目的を明確化
採用選考時に健康情報を聞く目的を明確にし、労働環境の安全確保や適正な配慮を目的とすることを候補者に説明する必要があります。
まとめ
採用時に既往歴や健康状況を確認することは、会社側の義務であり、従業員の健康を守るためにも不可欠です。ただし、個人情報の取り扱いや質問の内容には細心の注意が求められます。社内で改めて「確認すべき事項」と「聞いてはいけない事項」を整理し、適切な採用プロセスを構築しておきましょう。
【参照】