
はじめに|許可申請は「書類を揃えるだけ」では通らない
「派遣業を始めたい」と考えて許可申請に踏み切ったものの、途中で止まってしまったり、補正指示を繰り返し受けたりして、予定より数か月遅れで許可が下りた、そんな企業が後を絶ちません。
労働者派遣事業を開始するには、厚生労働大臣(都道府県労働局)の許可が必要です。申請から許可証の交付まで、通常でも2〜3か月かかります。書類に不備があればさらに時間がかかるため、十分な準備期間を確保したうえで臨むことが大前提です。
愛知県春日井市で派遣許可申請・更新手続きの支援を行っているカン労務士事務所では、これまで多くの中小企業の申請をサポートしてきました。その経験から見えてきた「つまずきやすいポイント」を、本記事では具体的にお伝えします。
共通点① 資産要件を「決算書が出てから考える」会社
派遣業許可申請でもっとも多くの会社がつまずく最初の壁が、財産的基礎(資産要件)です。
許可を受けるためには、貸借対照表上の数値が以下の3つをすべて満たす必要があります。
- 基準資産額(資産総額 − 負債総額)が2,000万円以上
- 基準資産額が負債総額の7分の1以上
- 自己名義の現金・預金が1,500万円以上
問題は、この要件を判定する数値が「直近の決算書」を基準とする点です。申請時点でいくらキャッシュがあっても、前期の決算で基準を満たしていなければ、申請すること自体ができません。
多くの中小企業が「申請しようと思って決算書を見たら、資産が足りなかった」という状況に陥ります。設立直後の会社や、業績が不安定な時期に申請しようとした会社に特に多い失敗パターンです。
対策: 申請を決めたら、まず直近の決算書(貸借対照表)を確認し、資産要件を満たしているかをチェックするところから始めましょう。要件を満たしていない場合は、増資や不要な借入の返済など、次期決算に向けた財務改善を先行させる必要があります。
共通点② 派遣元責任者の「要件」を事前に確認していない
派遣業を営むには、事業所ごとに派遣元責任者を選任しなければなりません。そして、この派遣元責任者には「3年以上の雇用管理経験」が必要です。
この経験要件を見落としているケースが中小企業では非常に多く、「社内に適任者がいない」「経験年数が足りない」と申請直前になって気づくパターンが後を絶ちません。
さらに、派遣元責任者になるためには「派遣元責任者講習」の受講が必要です。この講習は毎月開催されているわけではなく、受講してから申請まで1年以内という有効期限もあります。スケジュールを逆算せずに動き始めると、講習の空き待ちで数週間〜1か月以上ロスすることもあります。
対策: 申請を検討し始めた段階で、社内の誰が派遣元責任者になるかを先に決め、雇用管理経験の年数を確認しましょう。そのうえで講習の日程を早めに押さえることが重要です。派遣元責任者は職務代行者の選任も義務付けられているため、その点も合わせて社内体制を整備してください。
共通点③ 事務所の「20㎡要件」を甘く見ている
許可申請においては、事業所の物理的な環境にも厳格な基準があります。
- 事務所の広さが20㎡以上であること
- 他の会社と同一フロアで明確に区分されていること
- 個人情報を適切に管理できる環境(鍵付きキャビネット・シュレッダーなど)があること
- 賃貸借契約の使用目的が「事務所使用」であること(住居用契約は不可)
- 風俗営業が密集するような地域でないこと
特に見落とされがちなのが、賃貸借契約書の「使用目的」欄です。コスト削減のために住居兼事務所を使用している場合、賃貸借契約が「住居用」になっていると、そのままでは申請が通りません。契約の変更や大家との交渉が必要になり、時間を大きく取られることになります。
また、自宅の一室を事務所として使う場合も、2015年の法改正以降は審査が厳しくなっており、実地調査が入るケースもあります。事業所の看板設置の有無や設備の確認が行われることも想定しておくべきです。
対策: 申請予定の事務所について、面積・使用目的・個人情報管理の設備の3点を事前に確認してください。賃貸の場合は契約書の記載内容を必ず確認し、使用目的が「事務所」となっていることを確かめましょう。
共通点④ キャリア形成支援制度の「中身」が作れていない
2015年の労働者派遣法改正以降、許可申請の際には「キャリア形成支援制度」の整備が義務付けられています。具体的には以下の2つが必要です。
- キャリアアップ教育訓練計画の作成
- キャリアコンサルティングの相談体制の整備
ここでつまずく会社に共通しているのが、「様式だけ揃えてテンプレートを流用した」ケースです。厚生労働省が提供する様式はあくまで書式であり、自社の派遣業務の職種や特性に合わせた実質的な内容が求められます。審査では、計画の実現可能性や、記録管理の方法まで確認されます。
「とりあえず形式を整えればいい」という甘い認識で臨むと、補正指示を受けて作り直しになり、許可取得が遅れる原因になります。
対策: キャリアアップ教育訓練計画は、自社が派遣しようとする職種(例:製造業、事務職、ITエンジニアなど)に応じた具体的な内容を盛り込む必要があります。作成には一定の時間がかかるため、申請準備の最初期から着手しましょう。社労士などの専門家に相談しながら作成するのがもっとも確実です。
共通点⑤ 申請のタイミングとスケジュール感がずれている
派遣業の許可申請において、スケジュール管理の甘さは致命傷になります。
「○月から事業を始めたい」という目標日から逆算せずに動き始め、許可が下りる前に営業活動を始めてしまうケースもあります。無許可で派遣事業を行った場合、1年以下の懲役または100万円以下の罰金という重い罰則が科されます。さらに、一度許可を取り消されると5年間は再取得ができないため、絶対に避けなければなりません。
申請のおおまかなスケジュール感を整理すると、以下のようになります。
| 期間 | 作業内容 |
|---|---|
| 申請の3〜4か月前 | 資産要件の確認、責任者候補の選定 |
| 申請の2〜3か月前 | 講習の受講、事務所の整備、キャリア計画の作成 |
| 申請の1か月前 | 書類の準備・労働局への事前相談 |
| 申請後2〜3か月 | 審査期間(書類不備があればさらに延長) |
労働局への事前相談は、書類の不備を防ぐうえで非常に有効です。ただし、ご自身で申請する場合、一発で通ることはほぼないとも言われており、複数回窓口に足を運ぶことを前提に時間を確保しておく必要があります。

まとめ|派遣業許可申請は「早期準備」と「専門家の活用」がカギ
中小企業が派遣業許可申請でつまずく共通点を整理すると、大きく5つのポイントに集約されます。
- 資産要件の確認が遅い(決算後に初めて確認する)
- 派遣元責任者の要件・講習スケジュールを見落としている
- 事務所の使用目的や広さ要件を事前確認していない
- キャリア形成支援制度の書類が「形だけ」になっている
- 事業開始希望日から逆算したスケジュール管理ができていない
これらは、いずれも事前に知っていれば回避できる問題ばかりです。裏を返せば、早い段階で専門家に相談し、準備を進めることで、スムーズに許可取得を実現できます。
カン労務士事務所では、愛知県春日井市を中心に、派遣業許可申請・更新手続き・派遣適正化対応のサポートを行っています。「何から始めればいいかわからない」という段階からでも、お気軽にご相談ください。

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